技術とブランドを「稼ぐ力」に変える住友ゴム工業の戦略(後編)/身近な事例で学ぶ「DX×ビジネス」ビジネスパーソンと学生のためのデジタル変革ガイド Vol.23

はじめに

前編では、住友ゴム工業が「DUNLOP」という世界的なブランド資産を武器にして、グローバル展開を加速させていることや、さらに主力製品であるタイヤを、デジタル技術「センシングコア」によって高性能なセンサーへと進化させている現状について解説しました。

後編となる今回は、同社の技術がさらに社会貢献に寄与する形へ進化している事例を取り上げていきたいと思います。

循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)構想「TOWANOWA」


住友ゴム工業は、CASE社会の課題解決、サステナブルな世界の実現に貢献する「TOWANOWA(トワノワ)」を掲げています。
これは、資源を循環させる「サステナブルリング」を、同社の強みである「データリング(高度なデータ分析技術)」が支えるというコンセプトで構成されています。

循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)構想「TOWANOWA」

タイヤ事業における循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)構想「TOWANOWA」(住友ゴム工業)より引用
https://www.srigroup.co.jp/innovation/report_06.html

「TOWANOWA」は、単なる環境活動ではありません。
前編で紹介した「センシングコア技術」を含む先進デジタル技術やデータ分析を駆使して、環境対応を「コスト」ではなく「新たな収益源」に変えるための合理的なビジネス戦略の一面も持ち合わせています。
また、「TOWANOWA」をプラットフォームとした「産官学」および「異業種」との協創の推進も特筆すべき要素です。
以下の表で、「TOWANOWA」の中でもデジタル技術やデータ分析を活用した主な取り組みをまとめます。

取組み内容活用するデジタル技術やデータ分析
安全性を高めたタイヤの提供と、
資源の有効活用の両立
「Tyre Lifetime Simulation」などのデジタル技術
サステナブル原材料の開発スピード加速「ADVANCED 4D NANO DESIGN」などのシミュレーション技術や解析技術
需給予測の高度化と物流体制の最適化・『Tyre Manufacturing Simulation』による製品精度と生産性の向上
・AI・IoTプラットフォームの適用拡大
・グローバルでのデジタルデータ基盤整備
車両走行中のデータを活用し、最適なタイヤ・ソリューションサービスを構築
廃棄されるタイヤの量を削減と、材料リサイクルの促進
・センシングコア技術
・タイヤ空気圧センサー(TPMS)
・非接触無線タグ(RFID)

タイヤ事業における循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)構想「TOWANOWA」(住友ゴム工業)より引用し、筆者が作成
https://www.srigroup.co.jp/innovation/report_06.html

私が注目したのは、タイヤ1本1本にRFID(電子タグ)を埋め込み、個体識別IDを付与する取り組みです。
前編で紹介した「センシングコア技術」はセンサーを取り付けることなくデータ分析を実現していますが、このRFID(電子タグ)により、さらに個別管理が可能になっているからです。
これにより、製造から販売、使用、そして廃棄・リサイクルに至るまでの全ライフサイクルをデータ上で追跡(トレーサビリティ)できるようになります。

センシングコアなどで得られた走行データ(荷重や摩耗状態)をAIが分析することで、タイヤの「余寿命(あとどれくらい走れるか)」を予測したり、メンテナンスの最適なタイミングを提案したりすることが今後の展開として期待されます。
さらに注目したのは「リトレッド(再生タイヤ)の判定」への活用です。
リトレッドとは、すり減ったタイヤの表面(トレッドゴム)を貼り替えて再利用する技術です。
適切なタイミングでリトレッド(再生)できるようにして、省資源化を実現しています。
さらには、走行の役目を終えたタイヤ(End-of-Life Tires)をリサイクル原材料として活用し、循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)を実現しようとしているのです。

参照:タイヤ事業における循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)構想「TOWANOWA」(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://www.srigroup.co.jp/innovation/report_06.html

参照:サーキュラーエコノミー構想「TOWANOWA」紹介動画(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://www.youtube.com/watch?v=u3hN0oZ5j6w

参照:「国内メーカー初のRFID搭載市販タイヤを発売」(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://www.srigroup.co.jp/newsrelease/2023/sri/2023_077.html

独自のコア技術を活かした多角化戦略


住友ゴム工業は、タイヤやスポーツ用品のほかにも、ゴムのコア技術を活かした様々な産業品事業を取り扱っています。
その中から、今回は「制震ダンパー」をご紹介します。
現在、執行役員で、産業品事業を扱うハイブリッド事業本部長を務めている松本達治さんは、1995年の阪神・淡路大震災で大きな転機を迎えることになりました。
神戸に本社を置く同社は、本社ビルも被災し、社員やそのご家族の中にも犠牲になられた方がいました。

「私どもの会社はこの地震に対して、何のお役にも立てなかった」

松本さんには、そんな抑えがたい思いが湧き上がったそうです。

その思いを原動力に、巨大な地震に立ち向かうという強い意志で開発したのが「制震ダンパー」でした。

制震ダンパーの働き
制震とは(住友ゴム工業)

制震とは(住友ゴム工業)より引用
https://mamory.srigroup.co.jp/#damper

ここで、建物の地震対策である「耐震」「免震」「制震」の違いについて少し触れておきます。
まず「耐震」は、壁や柱を固めて、地震の力に「耐える」構造です。
一般的でコストは抑えられますが、地震の揺れがダイレクトに伝わるため、家具の転倒や、度重なる余震でダメージが蓄積してしまうリスクがあります。
次に「免震」は、地面と建物を切り離して、揺れを「免れる(伝えない)」構造です。
安全性は最も高いですが、装置が大掛かりでコストが非常に高く、一般的な戸建て住宅への普及にはハードルがありました。

そこで彼らが目指したのが「制震」です。
これは、ダンパーなどの装置で揺れのエネルギーを吸収し、建物の揺れを「制御する」技術です。

種類仕組みコスト
耐震建物の壁などに補強材を入れ、強度を増して揺れに耐える
免震建物と地盤の間にゴムなどを設置し、地震の揺れを逃がす
制震ダンパーなどの制震装置を設置し、地震の揺れを吸収する

松本さんたちが注目したのは、同社のコア技術である「タイヤ」でした。
タイヤは、高速で走行しながら路面の衝撃を瞬時に吸収し、地面を掴む(グリップする)力が求められます。
この技術を住宅の地震対策に応用して開発されたのが、制震ダンパーです。
カギとなるのは、レース用タイヤの研究から生まれた「高減衰ゴム」です。
このゴムを使用することで、地震の揺れ(運動エネルギー)を瞬時に熱エネルギーに変換して吸収・発散します。
これにより、繰り返す余震にも効果を発揮し、家の構造へのダメージを軽減するのです。

高減衰ゴム

制震とは(住友ゴム工業)より引用
https://mamory.srigroup.co.jp/#damper


また、特筆すべきは「導入のしやすさ」です。 ビルなどで使われる「免震構造」は非常に高額ですが、この制震ダンパーは、一般の戸建て住宅でも無理なく導入できる価格帯を実現しました。
さらに、新築住宅用の「MIRAIE(ミライエ)」とリフォーム(中古住宅)にも応用できる「MAMORY(マモリー)」のラインナップを揃えたことも大きなポイントです。
これにより、性能の良い製品を求めやすい価格で提供し、より広く建物の地震対策に貢献できるようになったのです。

その効果は絶大で、震度7が2回襲った熊本地震や、2024年の能登半島地震の被災エリアにおいても、制震ダンパーを導入した家屋の全半壊はゼロという実績を残しています。
現在では、その信頼性の高さから、熊本城天守閣の耐震改修工事や、大手ハウスメーカーの新築住宅標準装備としても採用されています。

自社の独自の強み(タイヤ技術)を活かして、住宅防災という異分野に進出し、新たな価値を創造する。
これはビジネスモデルで言う「範囲の経済」の好例です。
ゼロから技術を開発するのではなく、既存の強みを応用したからこそ、高品質な製品を安価に提供できたのです。

参照:制震とは(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://mamory.srigroup.co.jp/#damper  

参照:MIRAIEホームページ(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://miraie.srigroup.co.jp/ 

参照:MAMORYホームページ(住友ゴム工業):2026年1月時点
https://mamory.srigroup.co.jp/

さいごに

日本には優れた技術を持った会社がたくさんあります。
これは、まさに「日本の強み」です。
前編と後編にわたって紹介した住友ゴム工業の事例は、ブランド戦略やデジタル先進技術の活用、さらには範囲の経済による多角化戦略と、独自技術の強みをしっかりとビジネスに結び付けるための「手本」を示しているように思います。
「技術で勝って、ビジネスで負ける」ことのないよう、日本の技術が、その真価を発揮して世界へ広がっていくことを、心から応援しています。

今回学んでほしいポイント

  • 独自の技術を「社会貢献」につなげ、新たな価値を生み出す視点を学ぶ
  • 一社単独ではなく、産官学や異業種と連携して価値を生む「協創」の観点を学ぶ
  • 自社の強みを活かした、範囲の経済による多角化戦略の事例を学ぶ

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この記事の著者

株式会社Live and Learn 講師 DXビジネスエヴァンジェリスト

福島 仁志

ふくしま ひとし

この記事の著者

[DXビジネス・プロフェッショナルレベル認定2023] 株式会社Live and Learn講師 東京都在住。 新卒でNTTに業務職として入社。 顧客応対業務やシステム開発、法人営業の業務に従事したのち、 2016年にNTTを早期退職。2017年より株式会社Live and Learnで主に研修講師やコンサルティング業務に従事。 「消費生活アドバイザー」「ITILエキスパート」「ビジネス法務エキスパート®」などの資格を持つ。 趣味はバレーボール、プロレス観戦など。