CAINZに学ぶ「リアル店舗」起点の購買体験再設計/DXビジネス用語で学ぶ成功企業のヒミツVol.8

CAINZに学ぶ「リアル店舗」起点の購買体験再設計

 前回は、JR東海の事例を通じて、リアルな移動とデジタルサービスを統合したOMO(Online Merges with Offline 店舗などでのリアル体験にデジタル情報やオンライン機能を合わせ、顧客の行動データをオン、オフラインを意識させることなく一体化させる仕組み)モデルを取り上げました。スマートEXやエキナカ施策によって、移動予約・決済・滞在を一気通貫でデジタル化し、リアルな移動体験とサービスをつなぐ構造でした。

今回は「DXビジネス検定™公式テキスト」の第14章「リアルビジネス」の事例として、ホームセンター大手「CAINZ(カインズ)」を取り上げます。CAINZはOMO戦略、PB商品のSPA型開発、D2C展開、CRM基盤を組み合わせ、リアル店舗を起点とした購買体験を再構築している企業です。顧客との接点→データ基盤→商品開発→販売→循環という“価値の流れ”に沿って読み解いていきます。

「DXビジネス検定™」公式テキスト
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リアル店舗を起点としたOMOモデル  生活導線に溶け込む設計

CAINZの最大の特徴は、「リアル店舗を起点」にしたOMO(Online Merges with Offline)戦略です。

多くの小売企業がEC化を進める中で、CAINZはあくまで「店舗」を核にし、そこにオンラインを連動させることで、生活者の日常に自然に寄り添う設計になっています。

CAINZアプリでは、スマホで商品の在庫を確認し、店頭受け取りや自宅配送を選択でき、店舗での購入リストやアプリでの過去購入履歴が自動保存されます。このようにオンライン機能が充実しているので、「店内で探す時間」が削減されます。また店舗では、棚のQRコードを読み取れば詳細情報やレビュー、使い方動画へアクセスできます。このようにリアルの購買体験にデジタル情報を重ねることができる構造になっています。

会員基盤とCRM ―OMOを支えるデータ

CAINZはOMOの実行基盤として「会員ID」を上手く活用しています。

アプリ会員は500万人超。購買履歴、来店頻度、関心カテゴリなどをもとに、個別クーポン配信や来店前のレコメンドを行い、購買体験をパーソナライズ化しています。単なる「ポイントカード+販促メール」レベルを超え、来店前→来店中→来店後の一貫させた顧客接点デザインが特徴です。

オンライン注文を店舗で受け取る行為の行動データもCRM(Customer Relationship Management 顧客データを統合的に管理し、個別のニーズに合わせた提案やサポートを行うことで継続的な関係性を築くアプローチ)ツールに反映されます。これらのデータは、店内レイアウト改善、在庫配置最適化、新商品開発などにも反映され、リアルとデジタルの行き来により「購買体験をより良くする工夫」がされています。

CRM

PB商品×SPAモデル   データを起点にした“CAINZらしさ”の開発力


CAINZを語るうえで欠かせないのが、自社開発商品(PB)を軸とするSPA(製造小売)モデルです。

CAINZは企画・製造・販売を一貫して行い、「CAINZらしさ」を商品で表現しています。仕入れではなく、顧客の声を起点とした商品改善サイクルを回すことで、他社が模倣しにくい差別化を実現しています。

収納用品などでは、「あと1cm小さければ収まる」「片手で開けられる」など生活者の細かい不満をすくい上げ、痒いところに手が届く商品群を開発。この裏側では、購買データやレビュー分析が活用され、デジタルが製品開発力を下支えしている点もポイントです。

D2C×OMOのハイブリッド戦略  ブランドを“育てる”販売モデル

CAINZはSPA企業であると同時に、自社ブランドを直接販売するD2C企業でもあります。
 
ECやアプリを通じてPB商品を販売し、その反応をリアルタイムに取得。掃除用品や日用品シリーズでは、SNSやレビューの内容をもとに翌シーズンには改善するなど、顧客と共にブランドを育てる構造が確立しています。

ここでOMOが再び効いてきます。リアル店舗での体験とオンラインでの反応が循環し、実店舗・アプリ・EC・SNSが一体化したブランド体験が生まれているのです。

レビュー

DXビジネスモデルとしての意義  リアルを“データハブ”として再設計する

CAINZのモデルは、リアル店舗を中心に、OMO、CRM、SPA、D2Cを複合的に組み合わせた「リアルビジネス」の進化形です。

JR東海が「移動と駅サービス」を統合したように、CAINZは「暮らしの基盤と購買行動」を統合しています。その根底には「デジタル化=オンライン化」ではなく、「リアルの価値をデジタルで拡張する」という思想があります。

リアル店舗をデータハブにしつつ、CRMで顧客理解を深め、SPAで商品を磨き、D2Cで関係性を深めるこの一連の構造がCAINZの強みそのものです。

まとめ

OMO、CRM、SPA、D2Cという複数要素を統合し、「リアル店舗を起点にデジタルを重ねる」ことで生まれる購買体験こそ、CAINZを他の小売企業と一線を画す存在にしています。

これまで見てきたタイミーが「時間と仕事」、minneが「クリエイターとファン」、U-NEXTが「ユーザーとコンテンツ」、スタディサプリが「学習者と教材」、ONIGOが「生活者とモノ」、JR東海が「移動と駅サービス」を結んだように、CAINZは「生活者と暮らしの基盤」を結び、リアルビジネスの新しい形を示しています。

次回までの宿題

次回は、同じくリアルビジネス事例としてスターバックスコーヒージャパンを取り上げます。ファンを引き付ける魅力的な店舗設計、メニュー群とデジタルがどのように融合しているか、考えてみてください。

<vol.9に続く>

この記事の著者

DXビジネスアンバサダー

岸 晶子

きし あきこ

この記事の著者

都市銀行勤務後、出産を経て専業主婦に。3人の子育てが一段落した際にデジタルリスキリングを実施。その経験を活かしDXビジネス教育に関するコラム記事や大学向け教材作成などを手がける。