スターバックス コーヒー ジャパン 「体験価値」を軸にしたリアルビジネス/DXビジネス用語で学ぶ成功企業のヒミツVol.9

スターバックス コーヒー ジャパン 「体験価値」を軸にしたリアルビジネス

前回はCAINZの事例を通じて、リアル店舗を起点にOMO、CRM、SPA、D2Cを組み合わせた購買体験の再設計を見てきました。

今回は、同じくDXビジネス検定公式™テキスト第14章「リアルビジネス」の事例として、スターバックス コーヒー ジャパンを取り上げます。(以下スターバックス、またはスタバと表記)

スタバは、単なるコーヒーチェーンではありません。
熱量の高いコアなファンが数多く存在し、日常的に「通い続ける理由」を持った人が多いブランドです。

「DXビジネス検定™」公式テキスト
▲書影画像のクリックでAmazonでの購入に進めます

その背景にあるのが、店舗の居心地の良さです。
コーヒーそのものではなく、落ち着いた空間、過ごし方を邪魔しない、適度にフレンドリーな接客、長居を許容する設計。これらが積み重なり、「ここに来ると気持ちが整う」という体験を生み出しており、いわば「体験価値そのもの」を商品化しています。

リアル店舗を主軸にしながら、どのようにデジタルを重ね、ファンとの関係性を深めているのか。その構造を読み解いていきます。

「サードプレイス」という価値設計 商品ではなく“滞在体験”を売る

スターバックスの原点は、「サードプレイス(Third Place)」という思想です。
自宅でも職場でもない、第三の居場所。
この考え方は、スターバックスのすべての設計の起点になっています。

重要なのは、スターバックスがコーヒーそのものでは差別化しきれないことを早い段階で理解していた点です。
価格や味での競争ではなく、「ここに来る理由」「ここにいたい理由」を設計する。
そのために、店舗デザイン、音楽、香り、スタッフの接客トーンまで、体験として統合されています。

カフェ

この「体験を売る」という思想が、後のデジタル活用とも自然に接続していきます。
スタバの場合、デジタルは店舗の代替ではなく、店舗体験をより心地よくするために使われています。

店舗×デジタルの融合 モバイルオーダーが変えた来店体験

スターバックスの代表的なデジタル施策が、モバイルオーダー&ペイです。
事前にアプリ上で注文・決済を済ませ、店頭では商品を受け取るだけ。
一見すると、単なる「待ち時間短縮」の施策に見えます。

しかし、ここで重要なのは、単なる効率化ではなく体験の選択肢を増やしている点です。
・ゆっくり店内で過ごしたい人
・時間がなく、すぐに受け取りたい人
・通勤途中に立ち寄りたい人

それぞれの利用シーンに合わせて、来店体験を再設計しており、リアルな場をより快適に使うためのデジタル活用、典型的なOMOの設計になっています。

デジタルがリアルを置き換えるのではなく、リアル体験を補強し、パーソナライズしています。

会員IDとCRM 「スタバ体験」を個人に最適化する

Starbucks Rewardsを中心とした会員基盤も重要な要素です。
購入履歴、来店頻度、利用店舗、時間帯などのデータがIDにひもづき、CRMとして活用されています。

ここでのポイントは、過度なレコメンドをしないことです。スターバックスは、ECのように強い購買誘導は行いません。
あくまで、ドリンクチケットや期間限定商品の案内など、「特別な体験を限定的に紹介する」設計に留めています。

これは、スターバックスが「売上最大化」よりも「関係性の継続」を重視している証拠です。短期的な購買ではなく、長期的な来店習慣をつくる。
CRMをLTV最大化のための「圧」ではなく、「丁度良い接点」として使っている点が特徴です。

データによるパーソナライズと人間同士のコミュニケーションの共存

スターバックスのDXの特徴は、「やりすぎない」ことです。
データは持っている。しかし、それをすべて前面に出さない。

例えば顧客はその日の気分によってモバイルオーダーでも、店頭注文でも自由に選択できます。その際店頭では、「今日はどんなカスタマイズの気分ですか?」等というスタッフからの問いかけが推奨されていて、会話を楽しむこともできます。

この時の問いかけはデータに基づくアルゴリズムを活用するのでなく、1人ひとりのスタッフ個人が担っており、デジタルで効率化できる部分と、人が介在する部分を明確に分けているのです。

これは、リアルビジネスにおけるDXの重要なポイントです。
すべてを自動化・最適化することが、必ずしも顧客価値につながるわけではありません。
体験価値が中心にある業態ほど、「非効率に見える部分」をあえて残す判断が求められます。

スターバックスは「データ企業」ではない

スターバックスは大量の顧客データを持っていますが、自らをデータ企業とは定義していません。

あくまで、「顧客体験を磨くためにデータを使う企業」です。
・リアル店舗の体験価値を起点とし
・デジタルで利便性と快適性を高め
・CRMで関係性を深め
・人の接客で体験を完成させる

この構造が、スターバックスの特徴です。

CAINZが「暮らしの基盤」を、JR東海が「移動体験」を再設計したように、
スターバックスは「日常の中の余白時間」をデジタルで再定義しているのです。

まとめ

スターバックス コーヒー ジャパンは、リアル店舗を中心に、デジタル技術で顧客の体験価値を高めています。

OMO、CRM、モバイルオーダーといったDX要素は、
すべて「サードプレイス」としてのリアル店舗を軸に展開しています。
この軸があるからこそ、デジタルがぶれず、顧客体験として統合されているのです。

これまでの連載で見てきたように、
タイミー、minne、U-NEXT、スタディサプリ、ONIGO、JR東海、CAINZ。
それぞれが異なる業界でDXを進めてきましたが、共通しているのは
「何を中心価値に置くか」を明確にしている点です。

次回はいよいよ最終回です。
これまでの事例を横断しながら、
「DXビジネス用語をどう“自分のビジネス”に落とし込むか」
その考え方を整理していきます。

DXは流行語ではなく、ビジネス設計思想です。
最終回では、その全体像を一緒に振り返りましょう。

<vol.10に続く>

この記事の著者

DXビジネスアンバサダー

岸 晶子

きし あきこ

この記事の著者

都市銀行勤務後、出産を経て専業主婦に。3人の子育てが一段落した際にデジタルリスキリングを実施。その経験を活かしDXビジネス教育に関するコラム記事や大学向け教材作成などを手がける。