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特集3:現場の事例で学ぶマネジメント連載 ヒューマン・マネジメントのテクニック(23)
 ●「あたりまえ」と突き放すか、「助かったよ」と頭を下げるか

 プロジェクトだけではないが、仕事は問題解決プロセスの繰り返しである。とくに、新しいこと、いままでやったことがない仕事を相手にする場合の問題解決プロセスは困難である。この理由は簡単だ。知識、ノウハウが蓄積していないからである。

 定型的で、毎回起こるようなことは、当然、解決方法も分かっていることが多い。まったく同じではないかも知れないが、多少違っているだけのことが多い。こういう問題の解決方法は、ちょっと考えればわかることが多い。なぜなら、その問題における知識・ノウハウが蓄積しているからである。

 本来、プロジェクトは、新しいことを相手にする特徴をもつ。これまでにないビジネスモデル、新しい商売、新しい業務、新しいコンピュータシステムを相手にするのである。考えてみれば簡単な話だが、「先例がないことをやるために、プロジェクト組織が組まれる」のだから、プロジェクトが新しいことを相手にするのは避けられないことだ。

 だから、プロジェクトでは、どうしても知識やノウハウが不足している。こんな状態での問題解決は簡単ではない。プロジェクトを支えるメンバーは、問題解決に苦労するわけである。

 「人がついてくるPM」と「そうでないPM」をわけるのは、この「問題解決に苦労しているメンバー」の状況を理解しているか、そうでないかという点であることを理解してほしい。

 優秀なPMは、メンバーが苦しみながら「問題解決するために行動している」ことをよく理解しており、彼・彼女らに「感謝の念を見せながら」、問題解決の際には「報酬」をうまく与えることができる。

 報酬は、本当に簡単なことでいい。「君のおかげで助かったよ」、「さすが○○君だな。本当にありがとう」という言葉がメンバーの疲れを吹き飛ばし、次回以降も頑張ろうという気持ちを高めるのである。

 これは、「強化」である。「強化」とは、「ある行動を行った結果、報酬(本人にとってのメリット)が与えられると、次第に、その行動を繰り返すようになる」ということである。  プロジェクトという、新しく、知識もノウハウも不足したなかでの問題解決行動は、非常に苦労をともなうため、ほっておくと、自然にモチベーションが下がっていく。そこで、動機を高めるという、モチベーションコントロールが必要になる。

 これをうまくおこなうためには、「褒めるという報酬」を使いながら、「強化」につなげていくことが重要であるということだ。これがわかっているPMは、間違いなく、人を動かすことができるのである。

 一方、これがわかっていないPMは人の気持ちのわからない駄目PMである。

「仕事なのだから、どんなに大変でも、問題解決をするのがあたりまえ。問題解決ができなければ、評価できない」というスタンスをもつPMである。

 この考えは、正論のように思う。でも、実際にメンバーが「どのような」心理状態に陥っていくかは簡単に想像がつく。やる気を失って、迷走する姿が目にうつるようである。

 多くの場合、こういうPMが率いるプロジェクトでは、メンバーの気持ちは以下のようになる。

 「確かに、仕事だから問題解決するのは当たりまでだ。でも、今回の仕事は難しすぎるし、時間もない。PMも人の気持ちの分からない人だから、今回のプロジェクトは失敗するかも知れない。」

 このようにメンバーが思った時点で、士気は著しく低下する。本人たちは、「今回は、無理だ」と自己理由づけして納得してしまうからだ。

 本来、士気を下げないために有効なことは、メンバーたちに、「言い訳」できないようにすることである。メンバーたちは、「PMが信用できない」と思えば、簡単に「言い訳」するようになる。

「PMの人格が悪い」、「人格の悪いPMの決めたプロジェクト運営が悪い」「そんなPMを決めた会社が悪い」、「会社がとってきた仕事が悪い」等々、枚挙に暇がない。「褒める」と「褒めない」、「満足を与える」と「与えない」これだけで多くの違いがあることをリーダーとなる人は正しく理解しなければならないのである。


■芦屋 広太(Asiya Kouta)氏プロフィール
芦屋広太氏 OFFICE ARON PLANNING代表。IT教育コンサルタント。SE、PM、システムアナリストとしてシステム開発を経験。優秀IT人材の思考・行動プロセスを心理学から説明した「ヒューマンスキル教育」をモデル化。日経コンピュータや書籍への発表、学生・社会人向けの講座・研修に活用している。著書に「SEのためのヒューマンスキル入門」(日経BP社)、「Dr芦屋のSE診断クリニック(翔泳社)」など。

サイト : http://www.a-ron.net/
ブログ : http://d.hatena.ne.jp/officearon/
連絡先 : clinic@a-ron.net

 
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