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特集3 IT人材のヒューマンスキル教育連載 コミュニケーションリスク・マネジメントのススメ(3)
●何が顧客を怒らせたのか?

(1)画面やインターフェースの要望を2ヶ月間聞き続け、途中で急がせようとしなかった。
  若いPMは、当方の要望を毎回持ち帰り仕様に落とす作業を繰り返した。筆者は「こんなペースで大丈夫かな」と感じることもあったが、PMにも考えがあるだろうと思いそのままにした。何も言ってくれないのでスケジュール調整しているのだろうという感覚しかなかった。

(2)C氏の非紳士的な態度
  C氏の発言は一方的で顧客を怒らせるに十分な内容であった。C氏はそれまで会議に参加したことがなかったのに最後にこのような発言をした。我々顧客側は、PMとは人間関係があったが、C氏とは面識がない。そんな状態で苦情めいた言い方をされれば当方が不満に感じるのは当然と思う。

(3)C氏とPMの連携不足
 さらに、不満だったのは、C氏とPMの連携不足だ。PMはC氏に状況報告をしていたと思うが、結局C氏が参加したのは要件定義最終日だけである。それも、会議の最後までPMの進め方を眺めておいて最後に自分の意見だけ一方的に押し付ける。このような態度が顧客を怒らせた。事前にPMに「スケジュールが遅れるので早く決めてほしい」と言わせるように連携しておけばまだよかったのだが、好きなだけ要望出させておいて、最後に「間に合わないから今日で終わり」では納得できないのである。
●では、ベンダーB社にはどのような教育が必要になるのか。

 非常に長い事例説明であったが、ここで言いたいのは「顧客の関心事」に関するコミュニケーションにはリスクが多く織り込まれるということだ。顧客の関心が高くこだわる部分に対しては注意して応対しないと顧客を怒らす可能性が高くなる。これを避けるためには、以下のような教育を行うことが必要だ。


1.顧客の関心、ニーズを分析する習慣付け

 今回のケースに限らず、ベンダーが顧客の関心ごとやニーズを把握しきれずに顧客を怒らす言動をしてしまうことは多い。今回のケースでいえば、顧客は使い勝手を重視している。したがって、使い勝手に対する意見やニーズに関する関心は高く、ここにリスクが内在していると考え、上手く対応しなければらならなかった。顧客の関心が高いことに対し、それを否定もしくはないがしろにする発言をすれば顧客には不満が残ってしまうのである。

 顧客と応対するSEやマネージャにはこのことをよく認識させる教育を施さなくてはならない。ベンダーに蓄積した失敗事例を研究し、どういう状態で顧客と揉める事態に陥ったのか、どうすれば問題にならなかったのかを話合い、記録にまとめ、研修に利用するなど地道な教育が必要になる。
 

2.基本的対人スキルの教育


 今回のC氏の言動は顧客を怒らせるものであったが、これをC氏のキャラクターの問題としてしまうのは早計であろう。C氏は40歳後半のマネージャで大ベテランである。このようにビジネスマンとして十分経験をもった人物であってもときに不用意な発言を行い、顧客を怒らせる。人間は感情を持つ生き物である。なかなかはっきりしない顧客側にも問題はあるが、C氏が苛立ち、このような発言をしてしまったことは問題といわざるを得ない。C氏はこの後我々との人間関係を修復しようという気もなかった様子で、この後我々と接触する機会もなかったが、あの後、早いうちに双方接触し議論をしていれば、今回のような大事にならなかったかも知れない。C氏は発言の後、場の雰囲気が悪くなっていることを悟り、関係修復に動くべきだったと思う。それがなかったのは基本的対人スキルが弱かったためであろう。
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 このように、年齢が高くても基本的対人能力も高いとは言い切れないのである。この場合は、C氏を徹底的に指導し、反省を促し、再発防止のための対策を本人に考えさせ、強く自覚させる必要がある。本人に簡単に注意をしてうやむやにしてはならない。同じようなことが起こらないように、全社的に問題を共有化し、情報共有することが必要だ。当然、このことはB社の各層毎の教育(新人、中堅層、PM、マネージャ)などにも確実に反映すべきである。


3.SE、PM、マネージャの連携


 今回のケースではPMにも大きな問題がある。PMはマネージャと相談し、早い時期で今回のリスクを想定し、対策を講じるべきであったと思う。顧客が関心があることは「画面やユーザインターフェース」なのは分かっているのだから、この事をどう上手く進め、スケジュール遅れにならないようにするかを考える必要がある。こういった、リスク管理が甘いとプロジェクトはコントロールが困難になり、焦ったC氏のような発言を引き出してしまう。PMはプロジェクトに先立って、何にリスクがあり、どうすれば顧客を怒らせないかを考え、関係者に徹底をする。こんな動きができることがリスクコントロールにつながるといえよう。

 したがって、PMに関しても失敗事例を徹底的に考えさせ、全社で再発しないように共有化する指導が欠かせない。どのようにいえば上手く収められるのか、どの応酬話法がよいのか。これには王道がなく経験の積み重ねと共有化である。

このように、失敗を個人や顧客の問題とせずに根気よく分析し、心構えや応酬話法構築に役立てていくことが重要になる。

筆者はこの事例以外にも、あるときは顧客側で、またあるときは開発サイドとしてさまざまなシステム開発やシステム提案を受けたり、行ってきたが、いつも相手の関心を考えたコミュニケーションを行うことに注力している。このようなことを常に心がけていると、次第に相手の心が読めるようになってくる。そうなれば、会話は上手く進み、短期間で信頼関係を築けるようになる。

コミュニケーションリスクマネジメントに一番必要なことは相手の心をどれだけ読めるかだと思う。それには、相手の関心を探る工夫と失敗経験の分析を根気よく行うこと。さらに全社で共有化し、教育として体系化しておくこと。これが欠かせないというのが筆者の結論である。


■芦屋広太(Asiya Kouta)氏プロフィール
芦屋広太氏 OFFICE ARON PLANNING代表。IT教育コンサルタント。SE、PM、システムアナリストとしてシステム開発を経験。優秀IT人材の思考・行動プロセスを心理学から説明した「ヒューマンスキル教育」をモデル化。日経コンピュータや書籍への発表、学生・社会人向けの講座・研修に活用している。著書に「SEのためのヒューマンスキル入門」(日経BP社)、「Dr芦屋のSE診断クリニック(翔泳社)」など。

サイト : http://www.a-ron.net
連絡先 : clinic@a-ron.net

 

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