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特集3:心理学博士 奥村幸治の“「知る」「分かる」「変わる」科学“ 第7回 〜量的な発達と質的な発達〜
パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント
奥村幸治(プロフィール
   〜量的な発達と質的な発達〜
 「これまでできなかったのに、いつからできるようになったの」「どうして分かったの」「何かきっかけがあったの」などと、これまで分からなかったこと、できなかったことが、ある時期を境に、分かるようになった、できるようになることがあります。発達心理学的観点から鑑みると、このような変化は、認知・思考の発達に関連していることが推測できます。
 心理学的に、発達には大きく分けて 2 種類の発達が存在します。1つは量的な発達。これは、身体の成長に伴い身長が伸び、体重が増えるという類の量的な発達を意味します。一方、質的な発達とは、これまでできなかったことができるようになる過程で見られる、人の知覚、認知、知能に関わる変化を指します。今回のコラムでは、思考における質的発達の経過を示した Piaget (ピアジェ)の理論を紹介しながら、変化に潜むメカニズムを探ってみたいと思います。

 生物学者である Piaget は、次のようなことを試みています。 2 種類の透明のコップ(一方は背丈の高いコップでもう一方は背丈が低く幅の広いコップ)に同じ分量の水をそれぞれのコップに注ぎます。 3 歳くらいの子どもにどちらのコップの水の量が多いか尋ねると背丈の高いコップを選びました。同じ実験を 5 歳半くらいの子どもにすると、両方同じくらいだと答えます。私は、自分の子どもに同じ実験をやってみたことがありますが、ピアジェの実験結果と同じ結果が出たことを今でもよく覚えています(ビデオで撮影して何かのプレゼンテーションで発表したこともありました)。小さいお子さんがおられる方はぜひ試してみてください。別の実験で、同じ量の 2 つの粘土を丸と細長の形に変えて、先ほどと同じ年齢の子どもに見せ、どちらの粘土の量が多いか質問すると、 3 歳くらいの子どもは細長い方を選びます。 5 歳半くらいの子どもは上記の実験結果同様、二つとも同じ量と答えます。 Piaget は、これらの実験から 5 歳半の子どもには「物の保存」を理解する能力がついていることに気付いたのです。このことを専門用語では可塑性思考(変形する性質を理解できる能力)と呼びます。

 Piaget は、高次の認知に至るにはシェマ(既知習慣)と呼ばれる認知構造の段階を経て、より高次の精神構造を形成すると唱えおり、シェマは「同化」と「調節」と呼ばれる知的適応から必然的に生まれると考えられています。「同化」とは、新しい状況や問題に直面して既存のものに照らしながら新しく自分の中に取り入れることを指し、「調節」とは、外部の物事に合うように個体の働きを変えて、以前よりも困難な課題を解決することができる状態を言います。人はこれら「同化」と「調節」を繰り返しながら新しいシェマを獲得して、知的機能が発達するわけです。
 「これまで分からなかったことが分かる」「できなかったことができるようになる」――これらの質的な変化の背景には、物事の変化を捉える能力(何がどのように変化しているのか、その結果物事がどうなるのか)と変化に対する興味関心に重要な鍵がありそうです。

参考文献
『子どもの発達と環境』塚田紘一、明治大学出版部
『生涯人間発達学』上田礼子、三輪書店
『知能の心理学』ピアジェ、 J. 波多野完治他訳、みすず書房


■奥村幸治 氏プロフィール
奥村幸治氏 パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント 人材開発に関わるコンサルタント、アセスメント、トレーニング、コーチングに携わる。ブリガムヤング大学カウンセリング心理学博士課程終了。心理学博士。NPO国際ボンディング協会理事。さめじまボンディングクリニックカウンセラー

 
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