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特集4 現場の事例で学ぶマネジメント連載 ヒューマン・マネジメントのテクニック(3)
■ エリア(1)ケース事例

  筆者がマトリックス組織でマネージャを担当していたときの話である。マトリックス組織とは、機能型組織に所属するメンバーが同時に横断的なプロジェクト型組織に参加するというものだ。つまり、メンバーから見れば2名のマネージャの指揮命令を聞くことになる。ここのダブルボス制度がマトリックス組織の最大の弱点と呼ばれている。多くの場合、メンバーは職能組織のマネージャにメインの人事考課権があるため、筆者がいくら「俺が評価するから、職能組織の仕事よりもプロジェクト業務を優先してほしい」と言ってもインセンティブの効果はあまりあがらない。つまり、彼らは筆者よりも現所属の課長の言うことを優先してしまうのである。例えば、急ぎの仕事を指示したとしよう。

芦屋:

A君、急ぎなんだ。明日までに見積り書を整備してコスト明細を整備してくれないか?
A君: 明日ですか? それは無理ですよ。今抱えている仕事も明日なんです。
芦屋: そう言うなよ。両方明日にできない? できなければ、現業はあさってにできないのかな?
A君: 両方は無理です。あさってになったら課長に叱られます。
芦屋: そう言われると俺も困るんだよ。組織上は俺のラインにもなるんだからどうにかならないかな?
A君: 困ります。課長に怒られますから。すみません。

 A君のニュアンスが分かるだろうか? A君が見ているのは明らかに現業の課長だ。通常、上司の命令を聞かなければ評価は下がっていくが、A君の場合は、筆者がたとえ怒って、低い評価にしても怖くもなんともない。課長に従って仕事をしていれば守ってくれると無意識に考えているからである。だから、筆者は強制力をもってA君を引っ張ることができない。これがマトリックス組織でプロジェクト管理者を担当する場合の辛さである。

 しかし、筆者はこのときにある行動を行い、結果的にA君は以降筆者の言うことをよく聞き、必死で働くようになった。ここで行ったのが行動のインセンティブによるマネジメントなのである。では、筆者はどのように行動したのか。筆者が行ったのは、A君に筆者の仕事の一部をお願いし、その成果をA君の課長に報告しただけである(電子メールと電話)。その概略は以下の通りである。

【A君の課長へのメールと電話の主旨】

今回はA君に非常にお世話になった。
本来、A君の範囲外である難しい仕事を、筆者が別のトラブルでできなかったためにお願いし、A君に了承してもらった。A君は前向きな人間であり非常に好感が持てた。
課長の了承なくこのような役割をA君にお願いして、A君の作業量を増やしてしまったことをお詫びするとともに、A君のがんばりに感動して、このようなメールを書かせていただいた次第。
課長の部下指導力に敬服する。この話は、よい事例として情報システム部長にも報告させていただきたい。本当に感謝している。これからもよろしくお願いしたい。
A君を課長から褒めてやってほしい。

 以降、A君の筆者に対する態度は豹変し、筆者の言うことは何でも最優先で実施してくれるようになった。
 彼の行動のインセンティブは"仕事をやったことに対する高い評価"であり、筆者はそのインセンティブをA君にうまく与えただけである。これだけでメンバーの動きは見違えるようになるから不思議である。

 次回は、エリア(2)について説明する。

 

 

■芦屋 広太(Asiya Kouta)氏プロフィール
芦屋広太氏 OFFICE ARON PLANNING代表。IT教育コンサルタント。SE、PM、システムアナリストとしてシステム開発を経験。優秀IT人材の思考・行動プロセスを心理学から説明した「ヒューマンスキル教育」をモデル化。日経コンピュータや書籍への発表、学生・社会人向けの講座・研修に活用している。著書に「SEのためのヒューマンスキル入門」(日経BP社)、「Dr芦屋のSE診断クリニック(翔泳社)」など。

サイト : http://www.a-ron.net
連絡先 : clinic@a-ron.net


 
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