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特集4:現場の事例で学ぶマネジメント連載 ヒューマン・マネジメントのテクニック(18)
 ●「評価されない」ことがはじめから分かっていたシステム開発

 私がまだ、中堅だった頃の話である。当時私は、企業の内部SE(一般企業の情報システム部に勤務するSE)で、金融関係のシステムの開発・保守を担当していた。
 この頃は、いわゆるネットバブルの時期で、多くの企業でIT(インフォメーションテクノロジー)投資が盛んに行われていた。
 日本は、平成4年にバブルが終わって長い不況期にあえいでいたが、米国で始まったIT革命(データマイニングやインターネットによる販売、流通、製造革命)の影響を受け、特に外資系のコンピュータ関係企業は、日本企業に積極的にIT投資を勧めている状況だった。
 我々の会社も例外ではなかった。上層部が外資系コンピュータ企業A社の耳心地のよい営業活動を受け、次第に「IT投資ありき」になっていったのである。
 本来、企業には、コアの販売活動があり、それに競争力を持たせながら効率的に進めていくのが「経営」である。そして、それを行う能力と経験、度胸と繊細さを持つのが「経営者」だ。こういう当たり前の経営行為があってはじめてITは意味をもつのである。

 つまり、ITは道具でしかないということである。

 この当時は、こういう基本を忘れている人が多かったのも事実である。
 私の勤務していた企業も、このような傾向があった。一部の上層部が「ITは道具である」ということを忘れ、「ITを導入すればうまくいくはずだ!」という考えが横行したのである。
 このような状況のなかで、私はあるプロジェクトに呼ばれることになった。それまで、私は別の仕事をしたかったのだが、何か理由が分からないまま、新しいプロジェクトに急遽参加することになったのである。
 よく聞いてみると「データマイニング」のシステム導入ということであった。いわゆる、データウェアハウス(データの工場)といわれるものだ。
 そもそも、データウェアハウス自体はデータ自体なので、道具ではない。それを分析するツールと合わせて道具となる。ところで、この頃言われていた話に、「ビールとオムツは一緒に買われることが多いので、隣に陳列すべきである」というのがあった。
 こういう話は、外資系コンピュータ関連企業の主催するセミナーで紹介されたものであったが、これに日本の経営層は妙に惹かれてしまったのであった。
 つまり、私の会社でも「惹かれてしまった経営層がいた」ということなのである。「これはまずい」と思った。こういうシステム開発には成功は存在しないからである。こういうシステムは、構築自体はできるが、誰が使っても成果がでないのである。
 よく考えれば当たり前の話だ。データ分析システムは、企業の戦略があり、その評価をしていく健康診断のような役割を持つのである。
 しかし、今回の導入は「システムを買えば、ビールとおむつのような宝が出てくるかも知れない。いや出てくるはずだ」という根拠のない思い込みが先行しているからである。データマイニングの「マイニング」とは「発掘」という意味なのだが、まさしく、「宝の山が出てくる」と思い違いをしたのであった。

つづく


■芦屋 広太(Asiya Kouta)氏プロフィール
芦屋広太氏 OFFICE ARON PLANNING代表。IT教育コンサルタント。SE、PM、システムアナリストとしてシステム開発を経験。優秀IT人材の思考・行動プロセスを心理学から説明した「ヒューマンスキル教育」をモデル化。日経コンピュータや書籍への発表、学生・社会人向けの講座・研修に活用している。著書に「SEのためのヒューマンスキル入門」(日経BP社)、「Dr芦屋のSE診断クリニック(翔泳社)」など。

サイト : http://www.a-ron.net/
ブログ : http://d.hatena.ne.jp/officearon/
連絡先 : clinic@a-ron.net

 
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