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特集1:顧客志向の次世代マーケティング ”顧客見える化”の視点から X クレーム問題の本質を理解していくためのCRMメソッド
デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部 教授 匠英一(プロフィール
■何が客の"クレーム"を生み出すか。

 今回はクレームという問題を検討してみましょう。私はあまりクレームを言うほうではないですが――というより黙って去る客ですが――さて、あなたはどんなときクレームを言うのでしょうか。 こんな事例から検討してみましょう。
 携帯電話のサービス料金ほどわかりにくいものはありません。そこで、どのメニューが得なのか悩むわけですが、ある携帯大手が接続サービス料金を「ゼロ」とアピールして消費者の不信を買った事件がありました。このときの料金「ゼロ」は"ある特定の条件内"での話でした。それが店頭で説明する店員自身もよくわかっておらず、さらにクレームを増加させてしまう悪循環を作ってしまったわけです。
  ああ〜、あれか……と思った方はおわかりかと思いますが、喜ばせた後からの「マイナス条件付き説明」は、期待を裏切ったという印象を強めます。その結果、不満を大きくしてしまうことが心理学的にも証明されています。つまり、初期の期待が大きいほど、説明後に不満を再生産する「マイナスループ」が生じやすいのです。

■「ニーズのトレードオフ問題」を知ろう!

 当然これは、企業のブランドイメージを崩す結果となりました。そこでの問題は、顧客のサービスへの「期待」を大きくし過ぎてしまったことです。当初は一見すると、顧客の価格要求にきめ細かく対応したように見えたかもしれません。ですが、表面的な価格要求に対応したことで、もっと根本的な要求を無視する結果になってしまったのです。
 注意しなくてはならないのは、表面のニーズを追いかけて、より本質的なニーズを無視してしまう場合があることです。この事例では価格ニーズと納得ニーズの対立問題です。
 こうした相矛盾するニーズのトレードオフ問題があること、つまり、あっちを立てればこっちが立たないようなニーズがあることを忘れてはいけません。これは全てのクレーム問題の本質といってもよいことです。
 しかし、どうも、自己正当化をしがちなのが経営者のようです。「安くしようと私は努力しているじゃないか」とTVでも言っていましたが……。気持ちはわかりますがこれはいけません。

■サービスにおけるクレーム対応の課題

 この携帯会社のクレーム事件の例から教訓にすべき問題点は、次のことです。

 @サービス内容の提示の際に、顧客側にわかりやすい「選択基準」が示されないこと。
 Aサービス対応が客と店頭のみで終結し、顧客不満のリカバリーがされずにいること。

 @の「選択基準」とは、サービスを選ぶときの悩みに客の立場に立って応えることです。安いかどうかはそのサブ項目です。階層的な優先順位の「見える化」が必要ということです。これはメニューの見やすさの問題ではなく、顧客価値の優先順位の分析にあります。販売戦略として検討するなら、これはそう難しいことではないはずですね。
 Aの「リカバリー」とは、不満を解消するだけでなく、さらにプラス転換するという意味です。腐った果物を買ってしまった客がいれば、同じ品と交換するのは"不満の解消"であって"リカバリー"ではありません。プラスして返さなければリカバリーとは呼べないのです。
 リカバリーをするためには、まずは、クレーム問題が企業組織のどこで発生したかを認識することが必要です。とくに企業―社員―顧客の三者関係から把握することが大事なのですが、それはなぜか、わかるでしょうか。
 上記のように、店頭での客対応ミスという狭い範囲では、クレーム問題は「見えない化」してしまうからです。これは大変な仕事なのですが、顧客の「期待マネジメント」の問題として再検討し直すことが、この携帯会社にとって戦略上不可欠なクレーム対応だったと言えます。

■「期待マネジメント分析モデル図」でリスク関係の明確化を!

 ではその方法は……ということで、「期待マネジメント分析モデル図」(匠式)で紹介しておきましょう(下図参照)。


 図にあるように、企業―顧客―社員の相互の関係性を3つの領域に分けることで、それぞれのリスク関係を分析する視点が明確にできます。
(A)『企業⇔顧客』: のリスク関係 ⇒ 広報・CSR部門が対応
 企業・顧客間に生じるリスクの典型には、企業の組織的な不正ありです。顧客の企業イメージを直接ダウンさせ、不買運動にもなりかねないようなことです。最近では、「レピテーションマネジメント(評判管理))」という手法が注目されてきています。このときの「見える化」の対象は顧客の企業ブランドイメージです。
(B)『社員⇔顧客』のリスク関係  ⇒ 営業・販売部門が対応
 営業マンや販売員と客の現場接点で起きるクレームなどです。もともと客が見えやすい立場ですが、ここでの「見える化」の対象は直接的でセンシティブなプライベート情報も入ってきます。
(C)『企業⇔社員』のリスク関係 ⇒ 総務・IT部門他が対応
 顧客情報を社員・部門間で共有することでおきるトラブルや不正関係がリスク内容です。営業側の顧客情報を組織知として拡大していく仕組みが問われます。

 以上の3つの関係性を把握しながら、リスク課題の内容を全社の戦略方針として理解することが、クレーム問題の解決の根本となります。

 次回は、さらに心理学的な側面から分析の仕方を掘り下げて見ましょう。


■匠 英一(Eiichi Takumi)プロフィール
匠 英一氏 デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部:教授
和歌山市生まれ。東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。
90年より(株)認知科学研究所を創立。95年より中堅IT企業に入社し、インターネット活用の企画営業や顧客管理(CRM)のコンサルに従事。これまで11の異業種団体や資格団体を創設。公的な役職として、中央職業能力開発協会OA検定中央委員、CRM協議会理事・事務局長、早稲田大学客員研究員など歴任。
 現在は上記大学の教授職を兼務しながら、(株)人財ラボ(上席研究員)と(株)ミリオネット(非常勤取締役)などで顧客サービス発想法、eラーニング、CRMシステムのコンサル業務に従事。
 著書には、「顧客見える化」、「心理マーケティング」、「CRM入門」訳、「カスタマーマーケティングメソッド」訳、「意識のしくみを科学する」、「イラストでわかる心理学入門」等多数あり。
E-mail:takuei@netlaputa.ne.jp

 
 

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