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特集2:心理学博士 奥村幸治の“「知る」「分かる」「変わる」科学“ 第5回 「分からない」時期
パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント
奥村幸治(プロフィール
   「分からない」時期
 中学生の頃、科学が苦手で、分からない問題があればすぐに私の前に座っていた学友に尋ねて答えを教えてもらったことがあります。あるとき、彼は私に、『自分で考えてみろ』と少し怒った口調で返答したことを今でもよく覚えています。今思えば、分からないときも辛抱強く答えを探求して自分で答えを見出す習慣を作るよい機会を与えてくれたと思えるのですが、当時は、「なんて冷たいやつだ」くらいにしか感じられませんでした。「分からない」時期をどのように過ごすかは、自身の能力を向上させる上でまた人と接する上で非常に重要なことだと感じます。

 職業柄、心の病で苦しんでいる人やさまざまな悩みを抱えている人と接することがあります。それぞれの悩みや問題を聴いて、悩みの根本原因を患者さんと一緒に考えたり、ときには本人が気付いていなかったことを気付かせたり、あるいは、励まし慰めたりします。このような業務を行うカウンセラーの中には、自分で患者さんの悩みを解決しないといけないという錯覚に陥る人がいます。そもそも、カウンセラーが患者さんに代わって患者さんの問題を解決することはなく、カウンセラーの本来の役割は、患者さんが自身で問題を解決して克服できるように支援することなのです。そうでなければ、一生、患者さんが抱える問題をカウンセラーが解決し続けなければならなくなります。

 患者さんのことが分かるという現象は、本人や本人が関わっている人について質問をしたり、過去の話を聴いたりすることにより、当面分からなかったことを知るようになるプロセスで見られることです。臨床家として、このプロセスを焦らずに、相手の気持ちを汲み取りながら、話を聴く姿勢、いわゆる、共感する力が求められます。そうすることによって、患者さんは安心して自分の本心をカウンセラーに語り、錯綜していた考えが整理され自分が置かれている状況をより鮮明に見ることができるようになります。また、新たな視点で物事を捉えることができるようになります。さらには、カウンセラーとの関係性からこれまで関わってきた人との間で起こっていた問題の原因が理解でき、対応策を学ぶきっかけをつかめるようにもなるのです。このように熟練したカウンセラーの下で、患者さんは自らが問題を理解して解決できるようになります。

 このように、相手に共感しながら忍耐強く相手のことを理解する時期を過ごす能力に関して、土居氏は詩人 John Keats 氏の言葉を引用しながら解説しています。 Keats 氏は、詩人にとって必要不可欠な能力として「 negative capability 」と呼ばれる概念を紹介しています。それは、「不確かさ、不思議さ、疑いの中にあって、早く事実や理由を掴もうとせず、そこに居続けられる能力」です。土居氏は、この能力がまさしくカウンセラーに求められると説いています。もちろん、いつまでも分からない状態に留まることは問題解決になりませんので、少しずつ前進して分かる状態に達することが理想であることは言うまでもありません。

 私たちは、「分かる」までの過程で、日頃どれだけ negative capability を発揮しているでしょうか。スピードを争う今日の社会の中、結果のみに焦点が置かれて、結果に至るプロセスにさほど価値が置かれていないような気がします。このプロセスで得られるものは何か、再度、考える時期ではないでしょうか。

参考文献
『方法としての面接』土居健郎、医学書院
Lecture of John Keats. A selection of edited by Robert Gittings. p 43, Oxford University Press, 1985.


■奥村幸治 氏プロフィール
奥村幸治氏 パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント 人材開発に関わるコンサルタント、アセスメント、トレーニング、コーチングに携わる。ブリガムヤング大学カウンセリング心理学博士課程終了。心理学博士。NPO国際ボンディング協会理事。さめじまボンディングクリニックカウンセラー

 
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