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特集3:心理学博士 奥村幸治の“「知る」「分かる」「変わる」科学“ 第9回 変わる瞬間〜心の「相転移」(Phase transition)〜
パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント
奥村幸治(プロフィール
   変わる瞬間〜心の「相転移」(Phase transition)〜
 2007年10月30日の日経新聞に、弁護士である大平光代さんの記事が掲載されていました。「こどもと育つ」というタイトルで、大変興味深い内容でした。久しぶりに太平さんの記事にふれ、懐かしさを感じつつ、かつ、 2000 年に出版された『だから、あなたも生きぬいて』(大平氏著)の中に描かれた大平さんの印象が強烈に残っていたため、今回の記事の中での子育て中の太平さんは何か別の人を想像させ、これまでの大平さんとは異なった印象を受けました。
 大平さんについてはメディアを通じて皆さんも御存知だと思いますが、大平さんは、 1965 年兵庫県で生まれ、中学2年のときにいじめを苦にして自殺を図り、その後、学校での居場所を失い非行に走り、21歳のときに極道の妻となりました。背中に刺青を入れ今の太平さんからすると考えられない生活をしていましたが、後に養父となる大平浩三郎さんとの出会いをきっかけに立ち直り、中卒の学歴を乗り越えて、宅建、司法書士試験をクリアし、29歳のときに司法試験に合格されました。太平さんは非行少年の更生に努める弁護士として活躍するかたわら、さまざまなところで講演活動を行っておられました。2003年に大阪市助役に就任し2005年まで務められ、現在はダウン症のお子さんを育てながら仕事を続けておられます。
 大平さんの著書を読むと、強烈なインパクトを与えてくれます。大平さんの生き方に感銘を受けると同時に、どのように太平さんは自分を変えることができたのか、変化のプロセスはどのようなものだったのかなど興味は尽きません。
 人が変わるときに、脳の機能がどのように変化するかについて具体的なことはまだ分かっていませんが、物理学の分野に「相転移」(phase transition)という概念があります。水が氷に変化するとき、水温が徐々に下がってもゼロ度になるまで水は変化を起こしません。ゼロ度になって、水の中に氷の結晶ができて、結晶が全体に広がり、水の性質は液体から個体へと変化します。この変化(相転移)は短時間で起こります。
 『だから、あなたも生きぬいて』の中で、太平さんの養父である大平浩三郎さんがクラブで働いていた光代さんに生活を変えることを説いておられる姿が描かれています。あるとき、浩三郎さんが大声で光代さんをいさめた言葉によって、光代さんは目覚めて改心するきっかけができたと書かれています。
 精神科医の高橋和巳さんは、患者さんが変化するきっかけはほんの数個の言葉だと話しておられます。きっかけとなる言葉に共通しているものは、古い解釈への決別宣言であり、ここで言う解釈とは自分と自分をとりまく世界に対する解釈であると高橋さんは著書の中で語っておられます。
 心の奥底からの強烈な思いは、自身の神経系の組み換えを可能にする。大平さんが経験された変化は、まさしく、このような強烈な思いによって起こされたものではないでしょうか。

参考文献
『だから、あなたも生きぬいて』大平光代、講談社
『人は変われる』高橋和巳、三五館


■奥村幸治 氏プロフィール
奥村幸治氏 パーソネル・ディシジョンズ・インターナショナル・ジャパン株式会社(PDI)コンサルタント 人材開発に関わるコンサルタント、アセスメント、トレーニング、コーチングに携わる。ブリガムヤング大学カウンセリング心理学博士課程終了。心理学博士。NPO国際ボンディング協会理事。さめじまボンディングクリニックカウンセラー

 
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