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特集2 現場の事例で学ぶマネジメント連載ヒューマン・マネジメントのテクニック(2)

IT教育コンサルタント 芦屋 広太(プロフィール
 ヒューマン・マネジメントのテクニック(2)

 あなたはヒューマン・マネジメント能力に自信をもっているだろうか?マネジメントで最も難しい“人間の問題”、これを上手く対処しなくては仕事の成功はない。“人を動かすためには何が必要か”を理解し、適切に行動しなければならない。

 前回はヒューマン・マネジメントの難しさについて説明した。どんなに十分な経験があっても抜きん出た知識を持っていても、うまくいかないのが人間の問題である。これをよく理解しておくことが成功の第一歩なのである。

 筆者はさまざまなシステム開発プロジェクトを手がけてきたが、リーダーやマネージャーが感情をコントロールできず、自身の保身から部下を攻撃したために人間関係が崩壊したプロジェクトを目の当たりにしてきた。感情のこじれが複雑に絡みあったプロジェクトを立て直すのは本当に難しいというのが筆者の結論である。

 そこで今回は、「人間の問題でプロジェクトを失敗させないためには何が必要か」について説明することにしたい。

●ヒューマン・マネジメントモデル

 システム開発プロジェクトを成功させるために、リーダーはメンバーに気持ちよく動いてもらわなくてはならない。ここで、“気持ちよく”と言うと、違和感を持つリーダーもいると思う。このようなリーダーは、「メンバーはリーダーの指揮命令に従うのが当たり前」との考えが強く、威圧的命令でメンバーを従わせるヒューマン・マネジメントモデル(威圧的モデル)を使う。威圧的モデルも確かに有効なモデルの1つなのだが、万能ではないことに注意してほしい。つまり、いつでも、どんな局面でも、このモデルで成功できるとは限らないことを理解しておく必要がある。

 筆者の経験では、威圧的モデルが通用するのは、リーダーがある業務エリアにおいて、部下に比べて圧倒的な知識や経験、成功体験を持っているケースである。例えば、販売管理システムを長年担当してきた人材が、彼より経験や知識がない人材をメンバー、自分をリーダーとした新規開発プロジェクトを率いるケースである。この場合、このリーダーよりも高い知識と経験をもったメンバーが存在しないため、メンバーはどんなにリーダーが厳しくても従わざるを得ない。この結果、リーダーの地位は確立し、プロジェクトは安定的に進む。リーダーが次から次へと自分で問題を解決し、その遂行をメンバーに指示するからうまくいくのである。あまりにもリーダーが厳しいため不満をもったり反抗するメンバーがいてもメンバーの入れ替えで済むので、プロジェクトが崩壊することはない。だからうまくいくのである。

 では、威圧的モデルでうまくいかないケースはどういうものか。それは成功するケースの逆。すなわち、リーダーよりもメンバーのほうが、その業務エリアの経験・知識を持っているケースか、メンバーに優秀な人材(本当のリーダーシップを理解し、実践できる人材)がいるケースである。このようなケースでは、いくらリーダーが威圧的に命令しても、メンバーは納得できなければ従わない。たしかに、表面的には従うかも知れない。しかし、心から従うことはなく、あれこれ理屈を言ってかわそうとするので、リーダーはますます厳しくなる。結果、メンバーとリーダーの間に深い溝ができてしまい、プロジェクトがうまく進まなくなる。

 この場合、リーダーは業務知識がないので、自分で考えることができない。メンバーはリーダーを助けないのでリーダーは孤立して最終的には罷免されるか、かたちだけのリーダーとして影響力を落としていくことが多い。

 筆者は、優秀と言われたリーダーが、まったく新しい業務システム開発のリーダーで失敗したケースを数多く知っている。彼らは、使うヒューマン・マネジメントモデルを間違えた、というよりも、「威圧的モデル以外のモデルを知らなかった」というのが実際のところかもしれない。


●メンバーに気持ちよく動いてもらう

 話を元に戻そう。

 さきほど説明した「リーダーはメンバーに気持ちよく動いてもらわなくてはならない」を思い出してほしい。プロジェクトや組織のリーダーのミッションは“目的を達成するためにヒューマン・リソースを最大限に活用する”ということである。したがって、どんな業務エリアであっても、かならず成功させるための工夫をしなくてはならない。知っている業務エリアなら成功できるが、知らない業務エリアでは成功できないようなリーダーは評価されない。だから、メンバーのもつ知識・スキル・経験を最大限利用していくことが必要になる。メンバーに働いてもらい、その力でプロジェクトが成功すればリーダーの評価も向上するのだから、メンバーは、リーダーにとっての“大事なお客さま”と考えることができると思う。だから、筆者は“メンバーに気持ちよく動いてもらわなくはならない”と強く主張するのである。

 このように筆者が考えるのは、筆者自身の苦い経験が影響している。かつて筆者も、威圧的モデルで多くの小規模プロジェクトを成功させてきた経験がある。しかし、これらのプロジェクトは、すべて筆者が得意とする業務エリアを対象にしており、メンバーも若い経験不足の人材で構成されていた。筆者が全てを考え、メンバーに命令するだけでよかった。言い方は悪いが、メンバーは誰でもよかったのである。

 しかし、ある頃から、うまくいかなくなった。年齢を重ねた筆者の担当は、次第に知らない業務エリアへと広がり、また規模が大きくなっていった。メンバーも年上のベテランが含まれるようになった。このような状況で、筆者がいくら命令してもメンバーが動かない状況に遭遇した。厳しく詰めれば詰めるほど、人間関係は悪化していくのがわかった。このような環境で、筆者は今までと異なるリーダーシップモデルを発揮しなくてはならなかったのである。では、筆者は何を考え、どのようなリーダーシップモデルを身につけていったのか。事例を使って説明したい。

 
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