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特集1:平田周の「採用した新卒社員を3年で辞めさせないために」第2回 安定か自由か
三田教育研究所首席研究員 平田 周(プロフィール
 自由でありたいという思い
 安定であれば束縛があり、自由であれば不安定である。マイホームを持てば安定さは確保されるが、好き勝手に移住はできない。結婚せずに一人暮らしを続ければ、自由気ままだが社会的に不安定である。そのいずれを選ぶか、難しい選択だといえる。経済状態が悪い時は安定を求め、恵まれた経済環境では自由を求めたくなるといっていいであろう。豊かな社会に育った若者たちには、いま「自由でありたい」と思う気持ちが強いのは当然である。

 問題は、そうした自由が自らの手で勝ち取ったものではなく、与えられたものであることだ。これは若者だけにいえることではなく、日本人全体にあてはまる。日本は自由を謳歌しているが、これは西洋のように激しく戦って手に入れたものではなく、第二次大戦後、占領軍によって一方的にもたらされたものである。だから、せっかくの自由を大事には使えない。

 いわば、甘えの自由である。野原のまっただ中に一人立って「360度どの方向に進んでもいいよ」といわれると、足がすくんでどこをめざしてよいかわからなくなる。日本人一般が望む自由は、羊飼いに追われる羊の群れの中にあって自分だけは群れから離れて自由に行動でき、究極的には羊飼いの連れて行く小屋に入り、餌にありつきたいのである。絶対的な自由ではない。保証付きの自由なのだ。これは言論人やジャーナリストにもあてはまる。

 会社という束縛
 集団であり、かつきわめて効率的に経営しなければならない企業にあっては、社員が自由気ままに振る舞うことは許されない。とはいえ、会社は自由のない奴隷的社会ではない。会社での勤務時間外であれば、自由はある。自由が欲しければ、それは会社から離れた場所で自由を満喫すればよいではないかというのが欧米的な考えだが、会社の仕事への拘束時間が長かったり、通勤に時間をとられたりで、なかなか実現はできない。わが国の企業社会には、会社の仕事=生きることという価値観で満ちあふれている。その結果、束縛の中に自分の自由やよろこびが欲しいと思ってしまうのである。

 これまではそれでも会社の仕事の中にもかなりの自由があったが、欧米企業の不自由さ(自由は会社の外に求める習慣)が効率のために導入されて以来、社員の自由度はかなりに縮小されている。

 一方、若者たちはより大きな自由を欲しがる。その矛盾が増幅する。会社の仕事の中にそうした自分だけの自由が確保できないと感じると、そうした自由度の高い仕事を求めるようになる。そしてフリーターへと走る。会社の仕事は不自由、勤務時間以外は自分だけの自由な時間という割り切りができないのは、先ほど述べたように、自由を自分の手で苦労して手に入れたものではないからである。

 超一流会社にいても
 超一流会社に勤めていた入社間もない新人が、久方ぶりに学校時代の友人に会う。「おまえ、なにをしているんだ?」と尋ねると、「フリーターやってるけど、気楽なものだぜ、自由はあるし」という答えが返ってくる。さらに、やっかみ気分もあって、「超一流会社勤めは結構な身分だが、会社に束縛されて自由がないなんて可哀そうだなおまえは」と言われて心は動揺する。

 賃金格差がうんぬんされるが、大学卒初任給とフリーターの収入格差はそれほどではない。むしろフリーターのほうが多いくらいだ。差が出るのはボーナスだが、入社まもなくであれば、支給されるボーナスもさしたる額ではない。考えてみると、俺には自由がない。まるで社隷だと思えてくる。なぜこんなに恵まれた環境をあっさり捨ててしまうのかと親や先輩たちは思うのだが、自由のない自分がやけに哀れに思われてくるのである。

 安定を有難いと思うのは中年になってから
 自由でありたいと思うのは若さゆえである。結婚し、家庭を持てば、収入の安定は何よりも重要になる。しかし、そのことは若い時にはわからない。
「先になって困るぞ」と忠告されても実感がないからぴんとこない。なんでもできそうに思えるのは若さの特権である。

 やがてそれが現実のものになった時に気づくことになる。中年に達し、経済的に苦しい生活を強いられる。その状況を見て、その先の世界の若者たちは、これでは大変だと思いなおすようになるのではないか。そうなるまでは、放置しておくほかないのかもしれない。

 自由は与えられるものではなく、自分で勝ち取らねばならないものだということがわかってくるのは、そうした段階を経た後のことのような気がする。


■平田周 氏プロフィール
平田周氏 三田教育研究所首席研究員
どうしたら若い人たちの知力、思考力、英語力を高めることができるかを研究しています。大企業、外資系企業、中小企業などでの勤務、ベンチャーの立ち上げ、大学で教鞭など、さまざまな体験をしてきました。元東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科客員教授。専攻:国際情報論。

 
 

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