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特集4:顧客志向の次世代マーケティング ”顧客見える化”の視点から XI 「ポジティブ・センス」による顧客への”動態視力”を身につけよ!
デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部 教授 匠英一(プロフィール
 前回はクレームを見える化する問題を述べましたが、事実としての顧客の姿をどう浮き彫りにするかは"顧客見える化"にとって本質的な問題ですね。とくに"事実"を調べればよいという仮説検証の考えは落とし穴になりかねません。例えば、コップの水が半分だったとしても「半分もある」か「半分しかない」と見るかは、その当人の"見えたまま"の認識ではないからです。
 そこで、今回は筆者の「ポジティブ・センス」という視点から、仮説モデル作りの意義を検討してみましょう。

■「ポジティブ・センス」とは何か

 例えば、心配しているA事象があったときに、別のより深刻なB事象を経験することで、A事象自体が大したものではない気になることがありますね。生死をさまよう病気などをした経験の後では、小さな失敗もクヨクヨしなくなることなどです。このときには、比較している対象の"心の基準"が変わったのです。つまり嫌な経験自体がむしろプラス発想(≒ポジティブ・センス)のための認知的リソースとなったわけです。

 顧客の行動などを個々にデータとしてストックしても、その点的な情報の積み重ねでは「見える化」にならず、実践的な活用はできません。つまり、客の動きを「見える化」として理解するには、その「動き」の動機や根拠を過去の結果情報から積み重ねて解釈する"分析主義"ではなく、次にどう動くかという"予想"と"仮説"を先に持ちながら理解していくことが大切です。その仮説をどういう観点から立てるかというときに、プラス志向的な態度で見るのがここでいう「ポジティブ・センス」なのです。

■「見える」と「見られる」の相互作用の関係性

 顧客は受身的に見られている存在ということではなく、能動的な見る側への作用をしている「アクティブな存在」だということです。これについては、心理学ではよく知られる「ピグマリオン効果」があります。ある実験では、教師が成績の悪い生徒にあえて成績がよいと見なす態度を一貫してとったところ、その生徒に自信や安定した感情を生み出していき、その結果として本当に成績の良い生徒になったというのです。あえて意図的に相手を「良く見る」ことによって、その期待どおりに相手の行動も影響され方向づけられていくという興味深いプラス効果のことです。

 そのプラスの相互作用が、「教師―生徒」と同様に「企業―顧客」間でも成立すると考えることで、新しい良循環の顧客関係性を生み出すことができるのです。つまり、ポジティブ・センスのアプローチからすると、「見える化」の問題は、「見える」と「見られる」の相互作用の関係性としても捉えることができるというわけです。

※ そうした視点の理論的なリーダーのTojo Thathenkeryは、よりプラス志向の人材育成「AI理論」と結びつけて「Appreciative Sharing of Knowledge」(ASK)という手法を提唱しています。

■ポジティブ・センスの事例「ザ・リッツ・カールトンホテル」

 例えば、「リッツ・カールトンホテル」では、マニュアルも使用しながら、同時にドラマ的なサービス化を実践しています。これは客の行動を社員がわかるようにする仕掛けと同時に、社員自身に「クレド」という方針書のような手帳を持たせる仕組みによって実現しています。

 そこには、リッツ・カールトンホテル独自の行動スタイルを反映した行動原則が記されているもので、顧客を紳士淑女と見ることと、それにふさわしい自己(社員)であれというのです。このクレドによる"信条の見える化"によって、逆に客側もそれに応えようとする行動になります。それがピグマリオン効果として、企業側の「期待」に対応した形で、客側も動くというわけですね。

 リッツ・カールトンでの顧客対応が、まず理想の顧客にふさわしい従業員を重要と考え、クレドでその行動規範を共有化しているのです。まさに、こうした実践こそが、ポジティブ・センスによる「善循環」の顧客見える化といえるでしょう。


■匠 英一(Eiichi Takumi)プロフィール
匠 英一氏 デジタルハリウッド大学/デジタルコミュニケーション学部:教授
和歌山市生まれ。東京大学大学院教育学研究科を経て東京大学医学部研究生修了。
90年より(株)認知科学研究所を創立。95年より中堅IT企業に入社し、インターネット活用の企画営業や顧客管理(CRM)のコンサルに従事。これまで11の異業種団体や資格団体を創設。公的な役職として、中央職業能力開発協会OA検定中央委員、CRM協議会理事・事務局長、早稲田大学客員研究員など歴任。
 現在は上記大学の教授職を兼務しながら、(株)人財ラボ(上席研究員)と(株)ミリオネット(非常勤取締役)などで顧客サービス発想法、eラーニング、CRMシステムのコンサル業務に従事。
 著書には、「顧客見える化」、「心理マーケティング」、「CRM入門」訳、「カスタマーマーケティングメソッド」訳、「意識のしくみを科学する」、「イラストでわかる心理学入門」等多数あり。
E-mail:takuei@netlaputa.ne.jp

 
 

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